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【随 筆】 『みずしらべ』
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丸善木材(株) 専務取締役 鈴木 一浩 (釧路支部会員) |
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あれはたしか自転車に乗れるようになって2年が過ぎた頃だから小学校3年生頃だろうか、毎日風を切って砂利道や水たまりや原っぱを走りまわっていたサイクロン号(自転車)が突然パンクしてしまった。
がっかりして家に戻ると、すぐに母が近所の自転車屋に電話してくれた。
「・・はい・・パンク修理は500円ですね、わかりました、今から子供が伺いますのでよろしくおねがいします。」
といって電話を切り、母は僕に1000円札を一枚手渡した。
つぶれたタイヤが砂利道にくい込み鉛のように重たいサイクロン号を押して、僕はようやく自転車屋のおじさんの元へたどり着いた。
おじさんは野球帽につなぎ姿、瓶底めがねで「あー前輪だな。今やってやっから・・」といってタイヤからチューブを取り出し水の張ってある「たらい」のようなものにチューブを浸す。
「何してるの?」 (典型的な子供の質問)
「・・・水調べ」 (めんどくさくてその場で適当につけた「そのまんま」の答え)
「みずしらべ?」
「・・・そう、これは水調べっていってな・・こうやってチューブ浸すと・・ほれ・・ぶくぶく泡がでてくるだろう、ここに穴があいてんだよ。」(こっちを見てニヤリ)
「すげー!ほんとだ!そうやってなおすんだー!そっかー!すげー」
まるで手品でも見ているような気持ちになって夢中でぶくぶく泡を見つめる僕。
おじさんは優しくほほえみつつも真剣なまなざしで僕の左手にギュッと握りしめられている千円札を見つめながら言った。
「・・みずしらべはプラス300円だからな・・・」
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