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The Association of Small Business Entrepreneurs in Hokkaido
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 【随 筆】 『チュプカ161号 大島尚久さんの随筆』
      

 

 

釧路三菱自動車販売(株) 代表取締役 鈴木 全 (釧路支部会員)

 

 チュプカ161号、大島尚久さんの随筆「春になると思い出す事」を読む機会がありました。「然も有りなん!」と言うのが率直な読後感でしたネ。かの随筆に目を走らせ、ほぼ文末に近づいた頃、私の脳裏には別なることが思い浮かんでいたのです。実は私にも「春になれば思い出す事」が存在したからです。
 

 幾年か前、私が還暦を過ぎて間もない、ある「春の日」の事です。その頃の私は会社の「人材採用」を受持っていたため、1月〜5月までの間は札幌への出張が頻繁でした。思い出の「春の日」も前日からの仕事を終え、遅めの午前中に帰りの途につき、札幌駅から快速エアーポートで千歳空港へと向かっていました。札幌駅で発車時間ギリギリで飛び乗ったため、座席に空席が無く通路に立っている事を余儀なくされていたのです。まあ全区間立っていても約40分程度で千歳空港駅に到着するのですから、その頃の私にとってつらい時間にはならない・・・と私は考えながら、車窓を走り去る、春の町並みを眺めていました。
 

 電車が暫し走って、新札幌駅を発車した頃でした。私の前に座って乗っていた女子高生・・・1〜2年生かな・・・黒色のダウンジャケットにチェックのマフラーを巻き、学校の制服なのだろう、濃いグリーン色のブレザーコートに身を包んで、清楚な雰囲気漂う可愛い女の子・・・が静かに立ち上がり通路側に身を寄せ、「どうぞ・・・」と私に席を譲ろうとしているではありませんか。
 「○▲※□?・・・」突然の出来事に私の思考回路が混乱し始めたのです。
 「えっ!本当に私に席を勧めているの?」「そんなはずは無い。還暦を越えたとはいえ、オレは席を譲られるほどの年寄りではない!」「それに、今どき席を譲ってくれる高校生が本当にいる訳がない!」等々、思いは一気に駆け巡り、明らかに動揺しているのが自分でも感じられたのです。「いやいや私はいいから、貴女が座っていらっしゃい・・・」と言おうと思いました。でも何故か一瞬ためらいが過ぎり、言葉を飲み込んだのです。
 

 今の世の中、大衆の中にいて席を譲ると言う行為は、相当の勇気が必要な事になってしまいました。私の目の前にいる可愛い女子高生は、その勇気を振り絞って私に席を譲ってくれたのでしょう。「オレは年寄りではない!」という私の強がりで身勝手な自尊心で、今、彼女の申し出を断ったとしたら、どんなに優しく、丁寧な言葉を駆使したとても、以後、彼女は席を譲る「勇気」を捨て去るに違いなく、ここは素直に「有難う」の心をこめて彼女の好意を受け取るべきだと思ったのです。有難くも嬉しくその座席に腰掛けさせてもらいました。譲られた座席の座り心地の「優しさ」は、高級ホテルのどれにも勝り、あの感触は今も私の胸中に留まっているのです。
 

 どの停車駅であったかは失念しましたが、彼女は電車を降りました。降り際にチラッと私と視線が合いました。その目はかすかに微笑んでいたように私には見えたのです。その時、微笑んでいただろう彼女の目は、「春」真っ盛りの日差しもはるかに及ばない程、明るく、暖かく輝いていたのです。


 

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