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The Association of Small Business Entrepreneurs in Hokkaido
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今月の文学探訪

【 筆者プロフィール 】 

小田島 本有(おだじま もとあり)

昭和32年 札幌市に生まれる。
昭和51年 札幌西高校卒業。
昭和57年 北海道大学文学部卒業(国語国文学専攻)
昭和62年 同大学院修士課程修了。
 現在、釧路工業高等専門学校一般教科教授。
 専門は日本近代文学。
 同友会幹部大学で文学の講義を担当している。


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坪内逍遥『細君』 2017年6月
                小田島 本有

  14歳のお園は下河辺家に小間使いとして働き始める。御主人の定夫は有能な官吏で洋行の経験もある。著述家としても名を知られ、世間的な評判はいい。奥様のお種も陰気には見えるが慈悲深く、奉公先として何ら問題がないように当初は思われた。
 だが、この家が大きな問題を抱えていることをお園は知るようになる。定夫は家を空けることが多く、夫婦仲は疎遠だ。しかも、噂では定夫の女性問題が主たる原因で借金もかさみ、家計が厳しい状況にあった。この事情をお園に漏らした先輩格のお三は定夫から暇を出されている。
 お種の悩みは夫との関係ばかりではなかった。実家の父には後妻のお組がいる。彼女の実子である与四が親のすねをかじる問題児で多額の借金を抱えたりしていた。それを助けてくれたばかりか毎月実家の生活費の補助をしてもらっているということで、実家は定夫に感謝している。その点でお種は板挟みの状態に置かれていた。
 だがいつまでも我慢しきれるものではない。お種は実家を訪れる。父親は所用があるため退席し、彼女の相手をしたのはお組だった。お種は心中の苦しさを訴え、離婚の決意を語ったのだが、お組は妾の二、三人ぐらい当然のこととして全く聞く耳を持たない。そして自分にではなく父親に直接訴えればよいと退けるのである。
 そして事件は、お組が下河辺家を訪れたことに端を発する。与四が再び40円という多額の借財を抱えてしまい、前年に引き続きその助けを求めてきたのである。もはや夫の定夫に頼むわけにはいかない。そこで思い余ったお種はお園に質屋から金を借り受ける手段はないものか相談した。
 奥様の期待に応えたいと願うお園は懸命に動く。多額の借り入れをするには帳面が必要だった。叔母の知り合いである植木屋の清五郎に相談したところ、彼はその叔母の帳面をこっそり拝借してきた。その結果希望額には達しなかったが、25円を借りることができたものの、彼女は追い剥ぎに遭い、その金を盗まれてしまうのである。
 事件を知り、定夫の怒りは妻のお種に向けられた。彼の言葉を借りれば「財産は皆夫のもの」であり、たとえ自分の着物であっても質入れすることは許されない。この発想は彼一人のものではなかったはずである。この事件が警察の知れるところとなり、自分の外聞が悪くなることを定夫は気にかけるばかりだった。
 自分の不注意で大事に至ってしまったことを悔いたお園は井戸に身投げをする。お種は離縁となり、翌年定夫が娶った後妻は囲い者と噂された女であった。そして、あの晩お園から金を奪ったのが叔父の情夫であった清五郎であることが結末で明らかにされる。  なんともやりきれないが、女性の権利など一顧だにされない時代の話である。
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