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今月の文学探訪

【 筆者プロフィール 】 

小田島 本有(おだじま もとあり)

昭和32年 札幌市に生まれる。
昭和51年 札幌西高校卒業。
昭和57年 北海道大学文学部卒業(国語国文学専攻)
昭和62年 同大学院修士課程修了。
 現在、釧路工業高等専門学校一般教科教授。
 専門は日本近代文学。
 同友会幹部大学で文学の講義を担当している。


トップ  >  (4)『銀河鉄道の夜』
宮澤賢治『銀河鉄道の夜』 2005年8月

                小田島 本有

賢治の最大の理解者であった妹トシが肺結核のため亡くなったのは彼女が24歳のときのことである。このときの模様を彼は「無声慟哭」「永訣の朝」といった詩に書き留めたが、その後半年の間詩の創作が不可能になったという事実からも、彼がこのとき受けたショックがいかに大きいものであったかが伺える。トシは亡くなったが、彼女の魂はまだ成仏できずにさまよっているのではないか、そのような思いを 彼はなかなか払拭することができなかった。
   『銀河鉄道の夜』は、ジョバンニが友人カムパネルラと共に銀河ステーションから列車に乗り込み、旅を続ける物語である。この列車にはさまざまな人が乗り込んでくる。中には氷山にぶつかって沈没した豪華客船タイタニックの乗客もいた。幼い姉弟と家庭教師の青年は自らが犠牲となって、他の乗客にボートを譲ったと語る。彼らだけではない。この列車に乗り込んできた人達はいずれも死の影を帯びていた。  
 本当の幸いとは何か。これがこの作品を貫く基本テーマである。
   途中蠍(さそり)の話が女の子によって語られる。それまで他の生物を食べて生きてきた蠍は、いざ自分がいたちに追われて井戸に落ちてしまったとき、みんなの幸いのためにこの体をお使いくださいと祈った。するといつしか蠍は美しい火となって夜の闇を照らし始めたという。これは蠍座誕生にまつわるエピソードだ。
   そして、夢から覚めたときにジョバンニが目にしたのは、川におぼれた友人を助けようとして飛び込んだカムパネルラが行方不明になり、多くの人々が集まっている光景だった。「おっかさんは、ぼくをゆるして下さるだろうか」カムパネルラは列車の中でこう漏らしていた。人を助けるために自分が犠牲となる行為は確かに美しいし、称賛に値する。しかし、そのことは一方で肉親を悲しませることにもなる。生きるというのは本来こうした矛盾を抱え込むことに他ならない。
   ジョバンニは川べりでたたずんでいるカムパネルラの父親の所へ駆け寄り、今まで自分はカムパネルラと一緒にいたのだと必死に伝えようとする。しかし、このとき喉が詰まってしまって何も言うことができない。これはこの作品のクライマックスと言えよう。
   賢治は、『銀河鉄道の夜』を書くことによって、ようやく妹の死を乗り越えることがで きた。個人の死をたんなる悲しみの対象として捉えるのではなく、もっと大きな宇宙の中の営みの一つとして捉え直すこと。その壮大なスケールに我々はただ圧倒されるばかりである。
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